太陽光条例が施行されることの何が問題なのか。討論内容全文を記載します。


本日19時過ぎに6月定例会が終わりました。
朝に太陽光条例の修正案がもう1本提出されたため、時間を要しました。
その関連で議運で色々とあり、全て終わったのは21時前でした。

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「後退」太陽光条例は予定通り可決
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先日もお伝えした通り、6月定例会は太陽光条例が主要議題の一つであったと思います。
私はかねてより条例による適切なコントロールが必要である、との立場です。
財産権の問題があることも分かりますし、市民の声もよく分かります。
調和が保たれ、観光客の集まる、移住者の集まる、そして何よりも市民が安心して幸せに暮らせる街となるためには、条例による規制は必須であると考えてきました。

そういった意味では今回の条例は一見良さそうに見えるかもしれません。
しかし現状よりも良くなる「前進」する条例ではなく、「後退」する内容となりました。

いわゆる骨抜きで、可決することは状況をより悪くするリスクが高い内容です。
ひとまず可決して、のちに修正する、というのは詭弁なのです。


議会過半数の同調があれば、修正のための様々な交渉も可能なのですが、それだけの環境を作り出すことはできませんでした。
本日本会議の結果は委員会と同様でした。
(池田調べ。正確には議事録となりますので間違いがありましたらご指摘ください。)
【賛成】…ともにあゆむ会、明政、北杜クラブ、公明党、ほくと未来、清水敏行議員
【反対】…無所属の会、共産党

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反対討論のご報告(一言一句は議事録)
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本日準備しておいた討論内容です。
市民以外にも、場合によっては他の自治体の方が当条例を参考にされるかもしれません。
何が問題なのか、関心のある方へ情報が届きますと幸いです。

議案第45号「北杜市太陽光発電設備設置と自然環境の調和に関する条例の制定について」に当条例は「前進」ではなく「後退」である、との反対の立場から討論いたします。

まず本条例の目的とされていることですが、(本市の豊かな自然環境及び美しい景観並びに市民の安全・安心な生活環境の調和を図り、もって魅力ある地域社会の実現に寄与すること)とされています。

しかし条例案では、これらの目的が達成できない内容であるばかりか、現状をより悪くするリスクの高い内容となっています。

反対するポイントについて理由を申し述べます。

(まず対象とする設備)ですが、全ての太陽光発電設備ではなく、なぜかFIT法の認可を受けた設備のみを対象としており、全ての設備を対象としていません。他自治体では至極当然のことながら、わざわざこのような抜け道は用意しておりません。市民にとってはFIT認定設備だろうか認定を受けてなかろうが何ら違いはありません。
それらは全て同じ太陽光発電設備です。
FIT以外には高さ制限や離隔距離、標識の掲示など、当条例が適用されません。
FIT認定された設備以外は対象外とする合理的、論理的な理由は全く見出せず、謎です。
一方でFIT認定設備のみを対象とする設計の条例ながら、第2条で定義する「太陽光発電設備」は”FIT認定に限らず全ての設備”を指しています。結果として、条例全体を通して、設計の整合性、一貫性が取れていません。
・許可、についてはFIT認定のみを対象
・維持管理については、当条例の施行後はFIT認定設備のみを対象とするが、当条例前の設備についてはFIT認定の有無に関係なく全てが対象
・勧告、命令、については、FITに関係なく全ての設備が対象
・既存設備への適用、はFITに関係なく全ての設備が対象
と、このように条例としては不完全な状態と言えます。
このような条例を世に出して良い訳がありません。

(次に説明会)に対する懸念です。
これまで事業者が説明会をしない、個別に近所を訪問し事実とは異なる説明をする、といった問題が報告されていると理解しています。もちろん一部の事業者でしょう。そこで説明会を必須とすることが提言書の大きな柱でした。しかしパブコメを受けてようやく規則案に”説明会”と書かれました。
しかし条文としては、「地域説明会、個別説明会等適切な方法により」とされており、説明会以外も可能になっています。
説明実施報告書(様式第6号)においても、説明方法として2つ書かれており、【説明会の開催】もしくは【その他の方法】となっています。
その他の方法、すなわち個別訪問による説明会が適切であったか、地域住民等が説明会ではないことを良しとしたか確認するのか、との質問には、「確認しない」との答弁でした。
基本的には説明会を求めるのであって、それ以外の方法はレアケースになる、と口頭では説明を受けました。しかしこれまでも強制力がなかったことが問題であって、今回の条例も同様なけんが残るわけで、市の説明を鵜呑みにはできません。

(次に設備の安全性)ですが、強度計算し安全が確保されていることを市として確認する意思がありません。強度計算書が提出されても市では判断できないとの理由ですが、市民の安全・安心な生活環境を大切に考えている市長であったら、口が裂けても職員に言わせない答弁でしょう。実際に市内の設備を見て回ると、単管パイプで作られたような設備も見受けられます。
書類の中身をチェックできないのであれば、強度計算したことを示す誓約書を申請書類に含めれば良いだけです。
そんなことすらしないのは、市民の安全・安心を蔑ろにする姿勢の表れではないでしょうか。
1年かけた検討委員会の中で次のように確認されています。
・今の法令ではJISC8955の強度基準を満たさなければ本来は設置できない
・ただ、残念ながら建築基準法と違って事前の確認の法律はない。
・電力中央研究所、産業技術総合研究所の多くの方が視察に来たがとてもJIS規格、特に古いJIS規格2004でさえクリアしているとはとても見た目は思えないというようなものがたくさんあると言われている
・2MW以上については、事前に認定をするときに全ての計画書を出さなければいけないので、国が確認をして認定する。500kW以上については使用前自主検査ということで、検査をするが自主検査。500kW未満にいたっては適合命令はあるが、事前確認がない
・北杜市としては安全性を確保するために既にでき上がっている法律であるJIS規格の遵守を事前に確認するということを条例に入れたい
こういった合理的な理由を蔑ろにする理由は見当たりません。

(次にパネルの高さ)です。提言書では1.5mとされていますが、市の条例案では2.5mです。各種専門情報を参照すれば明らかなことですが、2.5mとすることの事業性、合理性は皆無です。修正動議で2mとなりましたが、まだ事業性がありません。
傾斜角度を低くすることで高さは抑えられますが、発電効率はさほど低くなりません。
傾斜角度を30度にした場合を100とした時、20度で98、10度で95、とされています。
例えば環境省のホームページに堺太陽光発電所の事例が出ており、発電事業者のコメントとして次のように書かれています。
「傾斜角度30度が最適とされていますが、社内で検証を行い、発電量に大差ないことが確認できた15度を採用しています。風圧の影響の軽減や架台・基礎コストの削減に加え、パネルによる日陰が少なくなった分、限られた敷地により多くのパネルを設置することが出来ました。」
これが利益を追求することが求められる事業者のコメントです。
仮に架台の高さが50cmとして、15度で設置すれば、ざっくり計算で1.5mにおさまります。
環境省以外の情報も一例として紹介すると、「傾斜角度35度の地域で20度まで抑えると、発電量が約2%落ちる代わりに同じ面積に対して約1.2倍ものパネルが設置できる」と紹介されています。
この様に、傾斜角度を低くすること=パネルの高さを低くすることは、事業性がより優れているのです。
また、当市にある北杜サイト太陽光発電所での研究成果が市のホームページに出ていますが、傾斜角度を30度より低くしても、発電効率が良い季節もあります。トータルで見た数値は出ていませんが、各所で示されている30度で100、20度で98、10度でも95と言った数値を裏付けるようなグラフです。高さ制限を1.5mとすることは、全くもって事業者への過度な制約ではないどころか、事業者にとってメリットの方が多いことがこれでもかと言うほど証明されています。
1年かけた検討委員会でも事業者から1.5mとすることの反対意見は全くでませんでした。
市が示した、高さ制限2.5mとする根拠のうち、架台は50cmとして計算していますが、根拠は雪でしょうか。豪雪地帯で高い架台での事例はありますが、雪が少なく日当たりの良い場所に設置するにも関わらず、北杜市で50cmの架台が必要ですか?この点からも、いかに高さ制限2.5mとすることが論理破綻しており、意味不明であるか、お分かりいただけると思います。

加えて”維持管理”について規則案では次のように書かれています。
「雑草が太陽光モジュールを覆うほど繁茂しないこと」。
雑草が2.5mになるまで放置でもお咎めなし、と言うことでしょうか。架台を50cmとしたのは雑草管理が楽になるよう、事業者に配慮した結果と、と言うことでしょうか。

(次に敷地境界からの離隔距離)ですが、提言書では敷地境界から5m、隣接地に住宅がある場合は敷地境界から10mとされています。数字だけ聞くと、過度に感じる市民もいらっしゃるかもしれません。
この要求が過度なものかどうか、家を建てる時のことを参考にしてみましょう。
当市「まちづくり条例」の建ぺい率を参照しますと、
森林共生区域で40%以下、
田園集落区域で50%以下、
市街地形成区域で60%以下、
商店街で70%以下、といった数字となっています。
提言書の離隔距離は、事業者に対して過度な制約でしょうか。紹介されている例の多くは、50%前後でした。明らかに過度な制約ではありません。
太陽光発電設備は犬小屋や物置ではありません。
太陽光は電気工作物であり発電設備であり、その施設は発電所です。
モジュールが劣化しようが、光が当たれば常に発電を続け、人為的に止めることができない、ある意味非常に厄介な代物です。
35kW以上であれば感電すれば死亡の危険があります。
水によって通電してしまうため、浸水した後に発火した火災事故も昨年の西日本豪雨で報告されています。
建築基準法の工作物から除外されたのは、規制の必要がないからではなく、電気工作物として電気事業法で規制されているので二重規制を避けるために除外されました。
架台の強度に関するJISC8955は2004年版から2017年版に改正された際には、風圧荷重は2004年版の2.3倍となり、建築基準法より厳しくなりました。
それは建築物と異なり、モジュールの下が空洞になっているため下から風に煽られ飛散の危険が大きいからです。
ただ、現実にはこれが守られているとは到底思えない設備が多い、と言うのが専門家の方々の当市視察時の意見と聞いています。
確かに電事法は国の管轄ですが、現実に危険とみられる設備が多く設置されている以上、その確認をする、もしくは危険を少しでも回避するように十分な離隔距離を取らせることは地域住民を守る自治体の責務であると考えます。
渡辺市長は、市民を守ることよりも事業者への配慮を優先しすぎています。
もし隣接する民家にパネルが飛ばされたら、と考えると、当条例が施行されることが怖くてなりません。

(次に訴求対応について)です。
市が予算をかけて助言をいただいた上智大学法学部教授・法学博士の北村先生からは次のような内容で意見書をいただいています。
「猶予期間を与えた上で、基準適合を法的に求めるとすれば、生活環境系のものではなく安全系のものに限定するのが適切であろう。もちろん、生活環境系の基準について、自主的な適合を誘導することは妨げられない。」
と意見されています。
このようにすでに設置された設備についても、安全に関わるものであれば、遡及しての適用は法的に問題ない訳です。
しかし渡辺市長は、市民の安全に関わるものについても遡及して事業者に対応を求める条項は作りませんでした。努力のみです。
市民の安全よりも事業者の利益を優先する姿勢がここにも色濃く表れており、一人の市民として失望感すら覚えます。

(次に地域の安全性)ですが、土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域、砂防指定地、保安林といった場所であっても「あらかじめ、市長と協議」することで、設備を設置できる道が開けている条例となっています。
なぜ危険な場所に設置できる可能性を残す必要があるのでしょうか。渡辺市長はそのような場所に設置しない、と、これまでの他の条項に対する考え方から思えますでしょうか?市民よりも事業者を優先する姿勢が色濃く出ている以上は、これらのエリアにも市長は設置許可を出すのではないか、と勘ぐってしまうのが自然なことでしょう。
そのようなことを許す条例には到底賛成できるはずがありません。
ちなみに助言をいただいた北村教授も禁止区域を設定すること自体にはNOとは言っていません。

(最後にまとめさせていただきますと)

特別委員会での市の答弁から、多くが運用や行政指導とされています。行政指導に限界があり、担当によって恣意的に変わってしまうので、明確な条例が必要なのに、また行政指導に頼るのでは、条例の意味がありません。
渡辺市長は当条例を作成するにあたり、職員の人件費を含め、多くの市民の税金・血税を使ってきました。その成果が今回提出された条例です。いったい今まで何をしてきたのでしょうか。
いま私が申し上げた内容や情報はほぼ全て、1年かけて実施した検討委員会の中で議論された内容です。当時存在しなかった無所属の会を除いた、全会派の代表が委員として参加し、市民が参加し、事業者が参加し、学識経験者と言われる方々が参加し、弁護士が参加した、重厚な体制の検討委員会が全会一致で、どの会派からの反対もなく、提言書にまとめたわけです。
感情的、感覚的な議論ではなく、論理的であり数値を用いた定量的議論の結果でした。
その提言内容をひっくり返すのですから、それ相当の根拠が必要です。
しかしながら、多くの点で合理的な根拠は示されていないことから、根拠は市長の政治判断である、としか考えられません。

増富の件、いじめの件など、市長の市民に対する姿勢がにじみ出ている案件は今回に限ったことではありませんが、もし百歩譲って今回の条例は市民のことを思い、作成したと言うのであれば、トップとして職員へ適切な指示ができていないことになります。もしくは職員が出してきた条例案を適切にチェックできていないことになります。
これらがことの真相だとすれば、市長としての職責を全うできていないことになりますし、そうでないにしても、結果責任ですから、市長には深く自らを省みていただきたいと切に願います。
以上のような理由から、議案第45号「北杜市太陽光発電設備設置と自然環境の調和に関する条例の制定について」、当条例は「前進」ではなく「後退」であるため、反対をいたします。

池田やすみち(山梨県北杜市議会議員)

■プロフィール■
池田恭務(いけだやすみち)
1973年5月1日生まれ(46歳)
1997年国際基督教大学(ICU)教養学部社会科学科卒
外資系コンサルティング会社等民間企業を経て、
渡辺喜美みんなの党代表秘書(公設政策秘書)。
2016年11月より山梨県北杜市議会議員。
会派無所属の会代表、経済環境常任委員会前副委員長、広報編集委員会副委員長。